2020年9月23日、V6の最新シングルがリリースされた。
実に前作から1年3ヶ月ぶり。「It’s my life」がドラマ主題歌としてお披露目されたのは春のことで、いつも以上に”待ちに待った”感の強いシングル発売である。
長い長い発売待ちの間に私もようやく「It's my life」というワードをV6の曲だ、と自然に判断できるようになった。
最初のうちはどうしてもかの有名曲が先行して浮かんでしまい、私の脳裏では勝手に筋肉が凄まじいあの芸人さんが「ヤーーー!!!」と粉チーズをぶちまける様子がフラッシュバックし困ったものだ。
そのネタが好きな私の音楽プレーヤーにはもともとBon Joviの「It's my life」も入っていて、この秋めでたく2曲の「It's my life」が並ぶことになった。
今回のシングルにキャッチフレーズとして添えられたのは「勤続25年の男たち、52作目」。
25周年を”勤続”と表現するこの公式さんのセンス。
エイベックスに名フレーズ職人おる。
目次
「It’s my life」
勤続25年の男たちの、ラフフォーマル
そもそも「ラフフォーマル」などという言葉はない。が、私がこの曲で好きな部分を総合するとこの造語がしっくりきた。
「勤続」という言葉にもピタリとはまる、フォーマルな出で立ちの今回のアートワーク。
サビの振りにはアイラブユーの手話が取り入れられていて、いかにも覚えやすそうな動きだ。こちとら伊達にファンをやっていない。みなまで言われずともわかる。覚えてコンサートでやるやつ。心の中でそっと了解、と返事をする。
そんな一見覚えやすそうな振りでもあるのだが、真似しやすく少し可愛らしいハンドサインにスマートなステップ、体の動きが加わってめちゃくちゃ上品に仕上がっている。
初回盤の特典映像の中にはかわいくなりすぎないように手の位置を調整しているシーンも見られ、可愛らしさとかっこよさのちょうどいい塩梅のところを上手く攻めているのだと改めて気付かされた。
MVではスーツを着てのシーンも多い。そのイメージがあるから、だから私はこんなにもこの曲にフォーマルっぽさを感じているのか?とも思った。が、それは歌番組出演の場でゆるめの服装に変わったとてやはり感じられた。
衣装が演出する部分は大きい。でもこの曲においてはダンスそのものやフォーメーションチェンジの所作からどことなく"ワンランク上な感じ"を抱く。それがどこからきているのかといえば、ガチガチに固めた雰囲気ではなくそれを自然とやってのける余裕だろう。
つまりはいい具合に力の抜けたラフさ。勤続25年の男たちが立ち振る舞う、「大人の余裕」とでも表現しようか。説得力が半端ない。
V6 / It’s my life(YouTube Ver.)
複雑な展開もスマートにまとまってしまう"V6らしさ"
CDが発売されたので改めて音源をしっかり聴いてみた。
すると、フルで聴いた時に曲の展開のちょっとしたややこしさに混乱する。単純にメンバーが歌っているメロディを、Aメロ、Bメロ…と振り分けていくと「なんだこれ?」と一筋縄ではいかないのだ。
私も明確な知識を持っているわけではないし、大抵は感覚で処理してしまっているので、改めて調べてなおしてみた。
そもそもこのAメロ・Bメロ・サビ…と分ける文化は日本独自のもので、邦楽曲は
「1番のAメロ・Bメロ・サビ、
2番のAメロ・Bメロ・サビ、
展開が変わるCメロ・ラストサビ」
というパターンが多い。確かに、すんなりこのパターンで展開する曲ならばど素人の私でも自信をもって判断できる。
「It's my life」では、1番のサビが終わるとラップパートに入る。
となるとそこが2番のAメロにあたるのだろうが、1番のAメロとはまったく違った印象だ。
じゃあAメロではないのではないか?ここはCメロなのか?そもそもここから2番であってるのか?
混乱した結果「もしかして…」と思い、改めてインスト、つまりボーカルが入っていないバージョンで聞き直すとあっさりそのカラクリは判明した。
1番Aメロも2番Aメロもバックにあるのは同じメロディなのだ。そこに乗るボーカルラインがあまりにも違うだけ。要するに、2番のサビ以外をラップに全振りしているのである。
また今作は、1曲を通してボーカルが乗らないパートがほとんどない。
1番が終わった後、なんなら間奏としても不思議でない部分にまでラップが乗る。しかもそこがファンとしては特別感のある森田剛&三宅健、剛健コンビによるパート。サビとAメロのつなぎに剛健、なんと贅沢な。
そしてなおかつ、1番のシンプルな展開に少し雰囲気が変わる剛健パートを挟むことによってより一層Aメロが先ほどとは別物に感じる。
一個人のファン的心理状況として言わせてもらうと、この瞬間に「剛健だ!!」という興奮に一瞬思考を持っていかれざるをえない。そこから怒涛のラップをかまされれば、目を離せない展開の早さに「気付いたら曲が終わっていたんです…」なんて状態も起こりうるのである。
V6の長い歴史を振り返ればこの「ラップ」というのもまた1つの武器だ。2番を思いっきりそちらに舵を切って進む、それによって1番とは違う武器を使う。それも、カミセン・トニセンでパート分けして。
最初に聴いた時の印象が「V6のいいとこ全部乗せやん…!」だったのだが、冷静に分析するとやっぱり"V6らしさ"が詰まっている。
1曲中ほとんど途絶えずそれぞれのパートが呼応するように続く歌声は、今回掲げられた「勤続」という言葉にも一致するような気がした。歌い続けて踊り続けて、時には前に出て、後ろに下がり。自分の担うべきところをそれぞれがしっかりと努め、それが重なってグループとしての形になる。25周年の、今のV6らしさそのものではないか。
またAメロの違いの件だけではなく、聴きこんでみて感じたのは「えっ、こんなにサビの味付け変えます??」という驚きだ。
あえてソロパートとして振り分けて声の厚みを調整したり、『ありふれた毎日も〜』のパートの位置をサビ終わりにしてみたりサビ前に持ってきたり、「サビがメインだと思ったでしょお、直後のCメロでもうひと盛り上がりあるんですよぉ…」という展開があったり。いや、サビの使い方多彩か。そりゃあ一筋縄でAメロだBメロだと仕分けできないわけだ。
深く考え出すとなかなかにややこしいのだが、V6が歌って踊るとすっきりまとまってしまう。
力強く励ますというよりは、肩の力を抜くようにそっと後押ししてくれるような歌詞と歌声。余裕を感じさせるスマートなダンス。
聴けば聴くほど好きになるし、見れば見るほど「過去のV6も良いけど、今のV6って最高だな…」と思える。そんな最新作である。
「PINEAPPLE」
「大人エロかっこいい」界に新星現る
勤続25年の男たちが「大人エロかっこいい」という触れ込みで歌番組でメドレーを披露する2020年を誰が想像していただろうか。歌っている最中、画面の片隅には「大人のエロス漂うメドレー」という文言が添えられている。
少なくとも私はその展開に驚き、かなり動揺した。いよいよファンの前だけでなく、言ってみれば"外"向けに大人エロかっこいいを出していく時代が到来したことにおののいていた。
きっとここから愛なんだとWAになることが定番な彼らが、「大人エロかっこいい」を背負ってパフォーマンスするというのである。
『おうおうなんぼのもんじゃい、そんなん言うからには相応のもん見せてくれるんやろなぁ兄ちゃんらよぉ…』と、私の脳裏で大人エロかっこいいイチャモンつけヤンキーが幅をきかせる。
とはいえファンからすればV6に大人エロかっこいい要素があることなど百も承知だ。ただ、やはり"外"に向けて披露するというのは、「あわよくばV6のこの一面を知らない人の心にぶっ刺され…!」という欲…いや、願いが渦巻いてしまい妙に緊張してしまう。推しの勇姿が広く遠く届くことに喜びを感じるタイプのファンなもので、今回も緊張感とともに見守った。
前置きが長くなったがそのメドレーにも含まれていた期待の新人が、最新シングルのもう一面である「PINEAPPLE」だ。V6ファン界隈で人気の高い「Supernova」先輩と並びで披露されたこともあり、一瞬にしてこの曲の位置付けが決まったような気がする。
この曲は、CillTrap(チルトラップ)というジャンルとのこと。
チルトラップとはなんぞや?と調べてみたところ、ダンスミュージックのジャンルのひとつである「ベースミュージック」(簡単に言うとベース〔低音〕が強調された音楽)の中の「トラップ」。そのトラップの中にも種類があり、その中でも静かな部類のものが「チルトラップ」と呼ばれるそう。
日本国内ではまだ馴染みの薄いジャンルであるということからも、この楽曲が最先端・最新のジャンルであることがうかがい知れる。
勤続25周年の男たちによる、世界観構築
振り付けはもはやそのお名前を聞くだけで期待してしまう…というより、絶対に最高のものしか提供してくれないYOSHIEさん。
ダウンタウンHEY!HEY! NEO!で
— YOSHIE (@yoshiebbc) 2020年8月3日
初披露されましたV6の「PINEAPPLE」振付させて頂きました。椅子を使い
センターが変わっていくカメラアングルを考えた上で振付を作りました。
ご本人とダンスをどの角度と動きで撮影したら素敵かにこだわりました。
素敵な曲です。
MVのフルバージョンお楽しみに。😊
今回は椅子を女性に見立てて使い、カメラアングルも計算した上での”映える”振り付け。
ソロパートごとにそれぞれがどう中心となるか。
それは単に「前に、中央に配置する」という意味でのセンターではなく、動線であったり、他の5人との対比でどう際立たせるかであったり。PINEAPPLEのソロパートのかっこよさは、その絶妙な足し算・引き算から成っているように感じる。
そして6人揃っての振りでまたそのグループ力が爆発する。「これを今V6が踊るからかっこいいのだ」と問答無用で思い込むことができる様は、ザ・プロの所業。
PINEAPPLEの振り付けは、拾っている音の数はそこまで多く感じない。が、その一撃一撃がすべて見事にクリーンヒットしている感覚が、見ていて非常に心地いい。
一打の強さと、そこからの余韻としてのしなやかな動き。コンテンポラリーダンスの要素を強く感じる振り付けはリズムの拾い方が絶妙で、曲を目でも楽しめる、という印象だ。
この感覚、どこかで…と思ったら、Perfumeなどの振り付けを手がけるMIKIKOさんの「音が見えるような振り付け」という表現に近い気がした。
聴くだけではなく視覚としても映える楽曲。椅子を使い、床を使い、感情を表現するような魅せ方で物語、世界観を構築する。
お茶の間的に浸透しているであろうバラエティ的・アイドル的な「V6」のイメージとは違ったこういう世界観をひっさげて音楽番組に出演する勤続25年の男たち。
これはもしかすると、通りすがりの一見さんにもわかりやすく、単純に「凄いこと」なのではないか。
アップデートを続ける、ということ
6人が集まることでこういった作品が出来上がり、その中では1人1人が欠けては成り立たないピースになる。個人としてダンス以外の分野にもしっかり基盤を持っている中で、V6として、6人で歌って踊る意義がここに確かにある。
正直言って今のV6は年がら年中踊っているわけではなく、むしろ個人活動の時間が多い。リリース枚数も多くはなくコンサートだって数年おき。
それでも、いざ新曲となると"こう"なのだ。まだアップデートするつもりだ、彼らは。
今回の新曲でいちばん嬉しかったのは、まだまだグループとしてしっかり歌って踊って、なあなあではなく全力で新しいものを見せようとする意欲をバッチバチに感じられたことだった。
四半世紀やってきた実績は確実にベテランと呼べるキャリアになっているのにまだ新しいものを。V6でやることを、V6だからできるものとして届けてくれる。その前向きな姿勢がなにより嬉しく、そうして勤める姿がさらに楽曲に説得力を与えている気がしてならない。
そして今回つくづく感じたのは、V6のメンバー本人たちだけでなくいかにその周りに「V6をどう魅せるか」をとことん考えてくれる方が存在してくれているか、ということ。
シングルの初回A盤・ B盤にはそれぞれMVの撮影風景や25年の振り返り企画などの映像が入っていたが、どれだけ多くの人が関わって作品が成り立っているかというのを改めて実感した。
私のような一ファンに「V6のこういうものが見たい!」という思いが存在するように、「V6でこういうものを作りたい」という方向性をプロとして考える方がいる。「V6なら」を考え、どうすれば一番よく見えるか?より良く届くか?を、細かく、こだわりをもって緻密に準備してくれる。そこにメンバーが全力を尽くして取り組む姿勢があって、ようやく一つのものができあがる。
その過程を少しだけ覗かせてもらえたような気持ちになれる特典映像だった。
現場のプロたちの仕事を見学したら出来上がったMVの見方も広がり、愛しさも増した。近年のMV撮影風景オフショットの中でも「作品づくりに臨む職人たちの裏側」要素が濃いめで、繰り返しになるが「勤続25年」というキャッチフレーズにもぴったりの映像だなと感じた。
新曲が届くのは、当たり前のことではない。
コロナ禍でたくさんのエンタメが"不要不急のもの"として削られていったのを目の当たりにした今、そして以前のような"普通"が取り戻せる見通しが立たない今だからこそ、より強くそう思うのかもしれない。
新曲リリースおめでとう。そして心の底から、新曲リリースありがとう。